アルムの書斎

『繁栄(前編)』

人類繁栄のカギは、「交換」と「専門化」にある。

繁栄ー前編

どうもアルムです。というわけで今回は、マット・リドレーさんの著書「繁栄」について、紹介していきたいと思います。

スマホとインターネットの普及で、人類はかつてない速さでテクノロジーの進歩と社会の変化を経験しています。これまでの仕事は機械に置き換わって、食料も衣服も住環境も充実して、圧倒的に便利になりました。ただ一方で、変化する社会に体が対応しきれずに、これまで経験したことのない体の不調にも見舞われています。

こういう社会の変化が果たして良いことなのかどうか。そして、変化を続ける社会に適応していくために僕らにできる事は何なのか。そういう漠然とした考えはいつの時代でも、誰しも考えた事があるかと思います。 ヒトそれぞれ、できることとできないことっていうのがありますから、社会が変わってしまったら、今の仕事ができなくなるんじゃないかとか、何の貢献も出来なくなるんじゃないかと不安になることもあるでしょう。

そこで、です。社会がこれからどれだけ変わっていこうと、人間だからこそできること、つまり他の動物にはない、人間にしかない才能とはいったい何なのかが理解できれば、環境が変わってもうまく対応していくことができるんじゃないかとぼくは考えました。

生まれてきた家庭とか、性別とか関係なく、ヒトとして生を受けた僕たち人類って、他の動物と比べて何が得意なのか。その答えを探るためには、人類がこれまでどんな歴史を歩んできたのかを知る、それも、農耕生活を始めるずっと前の狩猟採集時代から遡って、どうやってここまでの繁栄を実現できたのかを知ることが必要です。 なので今回は、学校の歴史では触れられてこなかった、人類の繁栄の歴史について紹介していこうと思います。前編と後編の二つに分けて紹介していくので、ぜひ最後まで聞いて頂ければと思います。

それでは、早速行きましょう。

今回の目的は、人類の繁栄の歴史をざっくりさらって、人間誰もが生まれながらにして持っている才能とは何のかを知る事で、変化する社会に適応していくことです。 じゃあその才能って何なのか。

結論から言うと、それは、交換と専門化です。

より正確に言うと、他者との物々交換、そして、自分の仕事をできるだけ絞って、少ない仕事を専門化したこと。これが人類が今日まで繁栄できた理由だと著者は言います。思いのほか拍子抜けに感じますが、実はこれが人類の繁栄を紐解く上ですごく重要なポイントなんです。

まず交換について説明しましょう。交換というのは自分の持っているモノや知識を他者と分け合うことをいいます。自分が作った道具をだれかに渡したり、狩りの仕方を教えたりする代わりに、別の誰かが手に入れた食料をもらったり、自分の知らなかった狩の仕方やを教えてもらう、みたいなことです。 ここで重要なのは、交換という行為それ自体は、人間以外でも行っていたという事実です。 モノを交換し合うという行為自体は、狩猟採集民の時代から既に行われていて、現生人類である僕ら以外のヒト属、そしてチンパンジーやシャチといった哺乳類の間でも普通に行われていました。

じゃあなぜ、僕らの祖先だけ繁栄できたのか。

それは交換という行為を身内だけでなく、他人ともするようになったからです。

チンパンジーやシャチといった哺乳類動物はそもそも自発的に交換という行為を滅多にしないことに加えて、交換相手はあくまで身内。血縁にある者や配偶者、顔見知りの友人などの範囲に限定されます。これは他のヒト属でも同様で、ホモ・エレクトゥスやネアンデルタール人のような現生人類以外の種であっても、交換相手は身内に限定されていました。つまりほとんどの動物は、自給自足の考えが基本にあるんです。食料も道具も、必要なものは全て自分で用意する。だからこそ、交換という行為をさほど重要に感じていませんでした。

しかし、僕らの祖先である現生人類、ホモ・サピエンスはその交換に価値を見出します。

物々交換を、身内以外の者に対しても行ったんです。

例えば森の中で、武器はたくさんあるけど食料は全然ない奴と、果物はたくさんあるけど武器は全然ない奴が出会ったとしましょう。両者は全く面識がありませんでしたが、お互いが相手の持っているものに価値を感じて、「よかったら、自分のと交換しないか?」と持ちかけます。武器しか持ってない奴は果物と交換することで食料を確保できて生き延びられるし、果物しか持ってない奴は武器と交換することで外敵から身を守ったり狩りができるため生き延びられる。双方にメリットがあると認識できたことで、物々交換は成立します。注目すべきなのは、この仕組みの凄さに気づいて、それをどんどん拡大、伝承していったことです。他の動物は、例えば施しと言われるような行為ならよく見られます。今日は僕ががあなたの背中を掻くから、明日はあなたが僕の背中を掻いてね、みたいなことです。但しこれも行う相手は身内に限られますし、見返りも限られている上に相手から返されるまでには時間がかかります。今日背中を掻いたからといって、その後すぐに自分の背中を掻いてくれるわけではありません。

しかし人類が行った交換はそうではありません。どちらも自分が持っていないモノに価値を感じていて、交換はその場で同時に行われます。しかもポイントは、相手が価値を感じればなんでもいいという点で、たとえバナナ一本と武器2つの交換であっても、相手が価値を感じてさえいれば、自分がバナナしか持っていなくても交換は成立できます。つまり、公平である必要すらないということです。同じ価値のものを提供しなくても双方に得がある。その仕組みに気づいたことこそ、人類が繁栄した大きな要因の一つだとされています。

では、他者との物々交換がされるようになって何が起きたのか。それが仕事の専門化です。

さっきも言った通り、現生人類以外のほとんどの動物というのは自給自足の考えが根底にあります。となれば、食料確保から道具の製作、住居の確保などは全て自分ですることになります。 だとすれば一日中、多種多様な仕事をずっとこなさなければいけません。一つでも仕事を怠ったら、その瞬間に命を落とすことにつながります。例えるなら、命綱なしでロッククライミングしているようなものです。

では、他者との交換を繰り返した現生人類はどうしていたんでしょうか。そもそも交換をするメリットというのは、自分の仕事と相手の仕事を交換し合うことで、自分に足りないものを補えることにあります。先程の例に倣えば、武器しか持ってなかった奴は、果物しか持ってなかった奴と交換をすることで、自分の生活を維持することに成功しました。つまり交換によって、自分では手に入れられなかったものが手に入り、生存できる確率が上がったことになります。しかもこれは自分だけじゃなく相手も得をしているからまた交換ができるようになる。すると生活はさらに安定します。生活が安定するとどうなるか。今度は相手により価値のあるものを提供することで、自分も価値の高いものを受け取りたい考えます。そこで、自分が作ったモノの質をあげたり、交換する量を増やしたりします。するといつの間にか、自分は一つの仕事の生産性を上げることに時間を割くようになっていきます。これが専門化です。

自分の仕事を少なく絞り、その仕事に専念することで、結果的に自分の生存確率を上げることに成功しているわけです。しかもそれだけではありません。仕事を専門化することで生き延びられるということが広まると、多くの人がそれに倣って自分の仕事を専門化しだします。

ある人は食料確保を専門化し、またある人は武器を作ることに専門化する。そうすることによって、多くの人に時間の余剰、つまり暇な時間ができて、自分の仕事にさらに専念できるようになります。結果として、集団全体がより生き延びやすくなり、さらに質の高い食料探しや武器作りに時間を割いていきます。

つまりこれは、仕事の専門化によって分業がなされているということです。

より少ない生産をしているのに、より多くの消費ができるという環境が実現できているんです。これが専門化の威力であり、人類が繁栄したもう一つの要因です。

考古学的な調査からもそれは立証されていて、現生人類は四万五千年前頃から本格的に道具を改革していった証拠が見つかっています。理由は交易を行っていたから。それまで集団の内部でしか行っていなかった交換を、集団同士で行うようになっていき、またその規模も何百kmにも渡った遠くの集団と行っていたことがわかっています。おかげで人類は様々な生息環境に住んでいる集団と交易を行い、質の高い食料や新しい武器の技術を習得していくことができたんです。

ネアンデルタール人も交換は行っていましたが、その範囲はすごく限られていて、例えば石器を作る際も、原料の入手は遠くてもナワバリから徒歩1時間以内で手に入る場所に限定していまいた。そして作る武器はいつも同じ。特に改良もしないまま、一度作ったものをそのまま作り続けけていたんです。

結局、ホモ・サピエンスとネアンデルタール人が争った際は、武器の性能や食料確保の面でホモ・サピエンスが圧倒的に優勢になり、ネアンデルタール人は絶滅に至りました。分業によって協力すればするほど規模は拡大していき、逆に自給自足に拘って孤立すればするほど規模は縮小していくということです。

これはなかなか面白いですし、現代の生き方にも応用できると思います。特に僕自身はこれまで、なんでも自分でやらなきゃいけないという考えが強かったので、人に頼るということにあまりいい印象は持っていませんでした。でも繁栄の歴史を紐解いてみると、人類は分業によって共に支え合うことでこれまで生き延びてきたんだと知って、自分にできないとこは他人に頼って、自分にしかできないことに専念することが重要なんだと認識しました。繁栄の歴史には変化する今の社会を生き抜くためのヒントがたくさん秘められているので、皆さんもぜひ参考にしてみてください。

後編へ続く

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