アルムの書斎

『繁栄(後編)』

「発明」と「共有」があるから、未来を楽観視できる。

繁栄ー後編

さて、それでは繁栄の後編、紹介して行こうと思います。

前回は、繁栄の前編ということで、人類が他のあらゆる動物を差し置いてここまで繁栄できた理由の一つが交換と専門化にあるという話をしました。ただ、人類の繁栄を説明しきるにはそれだけでは不十分です。交換と専門化によって部族間同士で分業ができるようになった人類は、その後どんな発展を経て現在までの繁栄を築き上げたのか。そして結局、その繁栄が人類にとっていいことなのがどうかと、全て踏まえた上で僕たちにできることは何か。今回はその辺りの話について詳しく紹介していこうと思います。

それでは、早速いきましょう。

前回の内容を改めておさらいすると、人類は現在まで驚異的な人口の増加とテクノロジーの発展による繁栄を成し遂げているが、その大きな要因は、他の動物では滅多に行わない物々交換をしていたこと。そして交換を続けるうちに、自分が生きるために必要な仕事の一部を他人に任せて、自分の仕事をより少なく、専門化したことによって、分業という仕組みを生み出し、互いの生活を互いに支え合うことができたから、ということでした。

ただ、人類の繁栄を全て説明しきるにはそれだけでは足りません。分業を続けたことによって変化した人口動態、奴隷の使用からエネルギー資源の活用など、要因はいくつもあります。その中でも特に取り上げたいのが、発明と共有です。

分業によって生き延びられることが分かったけれども、気候の変化や拠点の移動のような環境の変化は常に付き纏ってくる訳ですから、どんな環境下でも生活を維持していくには、道具や食料を常に改良していく必要があります。そこで生まれたのが発明という概念です。

今よりもっと使いやすい武器、今より安定した食料確保を実現するために、これまでの分業を総動員して、自分たちがより生き延びられるよう新しい武器や食料確保技術を作り出していきました。つまり専門化された分業の中身を交換し合ったんです。

身近な例で言うと自転車の製造過程なんかが分かりやすいかもしれません。

自電車って今では当たり前に存在してますけど、これは間違いなく発明と言えます。自転車という乗り物が作られるためには、まず原料となる鉄鉱石や樹液の採集、車輪やチェーン、サドルといった部品の製造、そしてそれらの組み立てと市場で売るための価格設定や宣伝などが必要になります。それぞれに工程があって、その工程を専門に仕事している人がいるからこそ実現できる所業です。絶対に一人の力だけでこの乗り物を作ることはできません。発明のプロセスというのは、それぞれの分業が互いに交換されることで初めて実現されるんです。

じゃあその発明をいつまでも続けることができているのはなぜでしょうか。

それは、発展と衰退が各地で断続して繰り返されていたからです。

発明による技術革新のことをイノベーションと呼びますが、歴史を辿ってみるとイノベーションによって発展した地域は常に変化し続けていることがわかります。五万年前には西アジアで窯と弓、五千年前にはメソポタミアで金属と都市、二千年前にはインドで織物とゼロの概念、一千年前には中国で磁器と印刷といった感じで、時代ごとに発展する地域、衰退した地域というのが必ず存在していたんですね。

衰退する原因は社会制度と人口にあります。社会にイノベーションが起きると一定の土地に対して人口が増えすぎて、発明家にとって必要な時間や富、市場が減っていきます。加えて官僚による規制も多くなって、利権をめぐる戦争も発生しやすくなります。逆にこれまで発展していなかった地域は交易によって新しい分業が生まれて、発明が起き、それがイノベーションにつながって、発展していきます。今で言うと、日本は衰退してるけどインドやアフリカが急速に発展してる状況がまさにそれです。どこかが衰退していても、交易は絶えず行われるので、必ずどこかの地域で市場が開拓されて発展する構造になってるんです。

この構造に至っているのにも理由はあって、辺境な地域の消失と労働時間に換算した対価というのが挙げられます。自動車や鉄道、飛行機などの移動手段が発達したことで、さらに多くの土地と交易ができるようになって経済活動を経験できる地域が増えてきたことが一つ。もう一つは対価です。狩猟採集から農耕、工業、情報へと生活を変化させていく中で、労働による対価、つまり賃金を得られる人が格段に増えたことで、多くの人が物やサービスを購入できるようになったことが理由にあります。

そして何より、繁栄つながるもう一つの要因だったのが、これらの発明を共有したことにあります。

より正確にいうとアイデアの共有といった方がいいんですが、これがなぜ繁栄の要因として挙げられるのか。答えはシンプルです。アイデアや知識って、なくなることがないからです。新しい知識とかアイデアの特徴というのは、それを他人に与えても、自分の中に残っていることにあります。自転車の組み立て方を一度自分で覚えたら、それを他の人にも教えたりすることってできますよね。でもどれだけの人に教えたとしても、自分がその知識を忘れたりすることはありません。アイデアもそうです。例えば新しい料理のレシピを思いついてそれを誰かに教えたとしても、そのアイデアって別に綺麗さっぱり忘れる訳でもなく、自分で覚えてますよね。もっと言うと、そういう知識やアイデアって無尽蔵に生まれてきますから、その結果出てくる発見や発明が枯渇することというのは、理論的にあり得ません。少なくとも人間がより豊かになりたいという欲望がある限りはずっと続いていくでしょう。これこそ人類が繁栄できている共有の力です。

ここ2世紀の間は特に、共有のスピードがさらに速くなってきています。情報伝達の技術と移動手段が発達してきてるからです。新聞からラジオ、テレビ、スマホと情報の伝達技術は凄まじい速さで進化しています。その先はVRやARになるかもしれません。学術雑誌『journal of law and economics』公開した2001年の調査によると、発明から最初の模倣品が現れるまでの時間は1895年の33年から1975年の3年にまで着実に減少しているようです。文明の進化が遺伝子の進化に対して持つ利点はまさにここにあります。つまり、進化のスピードが圧倒的に速いことです。それ故に、今の人間の体が狩猟採集の時からあまり進化していなくても、文明の進化が圧倒的に速いことで他の動物を差し置いてここまで繁栄できる訳です。

じゃあその繁栄が実際にいいことなのかどうかということですが、著者も僕も、それはすごくいいことだと思っています。確かに繁栄の結果として人口が増えて、食糧難や資源不足が問題に上がることは良くありますが、著者曰く、それも農耕生活の時と比べれば確実によくなってきていると言います。知の共有が瞬時になされる現代において、食料はその土地の特性にあった作物をすぐに見つけることができるし、情報さえあれば、貧困に苦しむ地域に向けて物資を送り届けることも可能です。資源不足に関しても、石油、石炭、天然ガスの組み合わせで数百年も持つ込みは十分あるし、仮にいずれかが不足しても、代わりとなるエネルギーはいくつもある上、実際に稼働もしています。

著者は、今ほど豊かで安全な時代はないし、歴史と証拠を辿れば、人類は徐々に豊かになっているのに、いまだに悲観的に未来を評価することに憤りを感じる、と述べています。人類が交換と専門化をどこかで続ける限り文明はからなず進化していきます。それが止まるとすれば、それは生きることを放棄した時と言えるでしょう。それがない限り、人類はこれまで以上に豊かさを享受し続けます。人口増加や気候変動に対する著者の見解も本書で詳しく述べられているので、気になった方はぜひ読んでみてください。

ということで、今回は以上になります。繁栄、前編と後編にわたって紹介してみましたが、人類学や考古学、経済学、環境学など、たくさんの視点から人類の繁栄の歴史を覗くことができる本です。生活に応用できる知見もたくさんあるので、是一度読んでいただけたらと思います。

最後まで見てくださりありがとうございました。stand.fmというで音声配信もしているので、こちらもぜひ覗いてみてください。

次回もお楽しみに。それでは、また。

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